Introduction for The Storytelling World

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Storytelling Movements in Japan

日本の語りとストーリーテリングの活動

                            
                            櫻井 美紀



T 語り手たちの会

  Japan StorytellersAssociation

 語り手たちの会は1977年に設立され、日本では唯一の“語りを中心に活動している会”である。会の活動は語り手のための情報提供と語りの質の向上を目的として行われる。設立当初、子育てをしている母親のグループが中心であったことから、設立目的の第一は、育ちつつある子どもたちの“情操教育”と“ことばの環境”を豊かにするためのストーリーテリングを行うことであった。活動歴10年を過ぎた頃から、芸術としてのストーリーテリングを含めて、青少年から成人・高齢者向けの活動を加えるようになった。語り手たちの会の主催によるお話会(Storytelling Gatherings)は年間20回程度、研究会・講座は年間15回程度、実行されている。

 語り手たちの会では、次の3種の出版を行っている。1は会の機関誌『語りの世界』で、年回刊行の80ページの冊子である。これには小論文・エッセイ・報告が掲載され、写真も豊富で楽しく読める情報誌となっている。は会報『太陽と月の詩』で、年回発行、会の運営報告・全国の語りの会の情報・会員のお便りを中心とするページのニューズレターである。3は「語りの文化シリーズ」で、会員の執筆による語りに関する個人著作である。これまでに『心とことばを育てる』『私の昔話論』『頭に柿の木―語りをつくる人のための昔話―』『児童文学と語り』『津軽の詩』『北上川のほとりで』などの冊が刊行された。

会には現在420名の会員・サークルが所属し、約1600名のボランティアの語り手と連絡をとりつつ活動をしている。会員構成は、市民活動ボランティアとしてストーリーテリングをする者が99パーセントで、プロフェッションとして活動する語り手は、今はまだ極めて少ない。

 

U 古代から現代まで

 物語を語る文化は、人類が文字を考案する以前から行われ、人々は語ったり聞いたりする行為を楽しんできた。西暦712年に書かれた日本最初の書物『古事記』は、語り部が一族の祖先の歴史を語ったものだが、創世神話と古代の英雄伝説を含み、古代部族の語り伝えの“口承の物語”である。

その後、日本における口承の物語は文字で伝える物語の陰に隠れていたが、中世以後に遊芸の語り手が多く出現し、楽器をたずさえて全国をまわり、口承の物語を語った。古代に始まった伝承の昔話(Traditional Storytelling)は、村の家々で“炉辺の語り”として、生活の中で根強く生き残り、老人が孫に語ったり、大人同士の楽しみとして近代に至るまで語られた。20世紀後半、伝承の語り手がヨーロッパにほとんど存在しなくなった時期でも、日本の1960年代の調査では、100話以上のレパートリーを持つ伝承の語り手が、日本中の村々に300人以上存在すると報告された。

 さて、文字に書かれた昔話を覚えて語る新しいタイプの語り(Modern Storytelling)は、日本では19世紀の終りに出現している。本に書かれた昔話や物語を口演する語りは児童文学作家の巌谷小波によって1898年に始められ、その一派の語り手はプロフェッショナルな語り手として、図書館・小学校・幼稚園などで口演した。これが日本のModern Storytellingの始まりであったが、この動きは約50年で中断し、日本の語りの中心にはならなかった。

 一方で、図書館の児童サービスとして行われるストーリーテリングは110年前に日本に伝えられた。アメリカの公共図書館の児童室で行われる“ストーリー・アワー”が、初めて日本の図書館情報誌に紹介されたのは1908年である。日本の図書館の児童室で“ストーリーテリング”が児童サービスとして位置付けられたのは1910年以後である。図書館のストーリーテリングは1960年を過ぎてから、児童図書館員を中心に本格的に学ばれるようになった。図書館が行うストーリーテリング講習会の歴史もすでに30年となり、ストーリーテリングといえば、子どもに語るものとして、児童図書館員や子どもを持つ母親たちが熱心に学んでいる。図書館の“ストーリー・アワー”は、諸外国では児童図書館員が職務として行うが、日本では市民のボランティア活動としてストーリーテリングを学んだ母親たちが大勢参加している。

 

V 語りの祭りとテラブレーション

 市民活動のストーリーテリングが日本に起こり始めたのは1970年代の後半からである。その頃、日本全国で子どものための読書運動が盛んになり、地元の図書館を支援し、地域の子どもを育てる“文庫”という形態の地域運動が始まった。この文庫で、図書館の講習でストーリーテリングを学んだ母親たちが子どもたちに“語り聞かせ”を始めた。前述の「語り手たちの会」の創立はその時期である。

語り手たちの会は、文庫の母親・学校教師・図書館員・民話研究者らの交流と学習の場として機能するようになり、読書運動と連絡を保ちながら、やがて、「語り」の本質へ目を向け始めた。日本古来の語りの流れを学び、村の語りとの接触を求め、民話の調査活動にも加わるようになった。そしてアメリカの語りの祭り、とくにテネシー州のジョーンズボロで行われる“ナショナル・ストーリーテリング・フェスティバル”について、JN・スミス著の“ホームスパン”(邦題『ストーリーテラーたち―現代アメリカのフォークロア―』、大修館書店)から多くを学んだ。

それらをもとにして、語りに関係のある団体へ語り手たちの会から「全日本語りの祭り」の実施の呼びかけを行ったのは1991年である。その結果、図書館関係・子どもの読書関係・民話関係の諸団体の協賛を得て、第回の「全日本語りの祭り」を挙行したのは1992年の10月であった。その後、語りの祭り実行委員会の企画により、日本の各地で地方自治体と共催しながら、隔年に「全日本語りの祭り」を開催している。毎回の語りの祭り参加者は約400名から1500名である。2000年からは「全日本語りネットワーク」が開催母体となっている。次回、第回の「全日本語りの祭り」は200610月に福島県会津若松市で開催される。

 1995年からはJG・ピンカートン氏の提唱する“テラブレーション”にも参加している。日本のテラブレーションの呼びかけは、当初は語り手たちの会から、現在は全日本語りネットワークから行っている。テラブレーション・ジャパンへの参加件数は毎年50件内外である。

 

W 日本における現在のさまざまな活動

 さらにこの20年間で、市民のボランティアの語り手が学校や保育園・幼稚園に招かれ、ストーリーテリングをする機会が急速に増えた。文部省が児童と青少年の“心の教育”を、地域の活動と連帯して行うよう、全国の小中学校へ要請したからである。この語りボランティア活動も軌道に乗り、全国のアマチュアの語り手は(全国調査はまだないので推定であるが)既に万人ほどになっているようである。ボランティアの語り手は学校・園のほか、幼児施設・障害のある学童・青少年・成人の施設・高齢者の施設・病院などへ出張訪問し、語りを行っている。語りの内容は昔話が多く、創作の物語・絵本の読み聞かせ・紙芝居・パネルや人形を使うパフォーマンスも加えている。

 ボランティアで語りの活動を行っているグループ数も、調査がないので推定であるが1000グループほどあり、それらは10人程度のサークルから70人〜80人のグループで活動をしている。そのような小グループが“全国的な活動を持つ大きな組織”と連絡をしている。

日本国内の語りに関係する“大きな組織”には図書館活動中心の会として「東京子ども図書館」「児童図書館研究会」「図書館の学校」、民話中心の会としては「日本民話の会」「民話と文学の会」昔話研究の民間組織として「昔ばなし研究所」などがある。前述したが、語り専門の会は「語り手たちの会」だけである。以上の7団体はそれぞれ機関誌を有しており、その発行部数はいずれも1000部から3500部の間である。そのほかに「全日本語りネットワーク」が運営委員8名の体制で各地の地元協賛団体と連携して2年に1回の「全日本語りの祭り」を主催実行している。

これまでに述べたように、日本の語りの大部分は図書館員とアマチュアのボランティア活動であるのが特徴である。しかし、プロフェッショナルの語り手も少数ではあるが活動している。現在日本には30人ほどのプロフェッショナルの語り手が存在する。私もその一人であるが、フェスティバルなどに招かれるほか、さまざまなステージでの公演を行い、「ストーリーテラーはストーリー・クリエーター」を掲げ、語り手としての活動をするとともに昔話の再話の執筆と出版を行い、語り手養成のためのさまざまな講座の講師を務めている。

国際交流にも触れておく。この20年間、語り手たちの会は諸外国の語り手たちとの国際交流を積極的に行っている。海外から語り手の来訪があるときに、セミナーや交流会を開き、テラブレーションに外国人語り手を招き、ともに語りの楽しみを分かち合っている。2005年10月のジョーンズボロの「ナショナル・ストーリーテリング・フェスティバル」には本会の交流担当委員であり語り手である末吉正子が招待されて日本の民話を語った。さらにヨーロッパの語り手との交流もこの数年間で密に行われるようになった。今後は海外の語り手と日本の語り手の国際交流が、ますます盛んになることを期待したい。

これを書いている今も、語りの心が世界の平和をつなぐ思いを持つ。語ることを通して、私たちは心豊かに生きることができると思うとき、希望が湧きあがる思いがするのである。(2001年9月執筆)(2006年9月加筆修正)

Miki Sakurai
Japan Storytellers Association, President

   
   
 
                語り手たちの会HP